Special
Talk
Session
緑豊かな奥入瀬で
リトリートする時間
上明戸 女性を対象にした高品質のセミナーと、奥入瀬渓流の自然を活かしたアクティビティを提供するという「奥入瀬サミット」は、2012年に青森県の主催で始まりました。自治体としては初めての試みだったこのサミットの、開催に至るまでのいきさつについて教えてください。
大谷 当初、青森県からは「経営者向けのセミナーを奥入瀬でやりたい」という相談を受けました。しかし国内には既に、そのようなセミナーが多数あります。そこで「女性向けに特化したほうがいい」とアドバイスしたんです。当時、女性をターゲットにしたエグゼクティブセミナーがありませんでしたから。
 海外では、男女問わず世界中のトップ達が集まって、さまざまなセッションをやって盛り上がる「ダボス会議」があります。それを想定して「ダボス会議の女性版にしてみては?」と提案してみました。
小林 そうそう、スローガンは「女性版のダボス会議を奥入瀬の地で」でしたよね。その頃も革新的なアイディアを持った男性経営者が集まってネットワークを広げる「G1サミット」という合宿はあったんですよね。参加費が高額なの。でも、そのプレミアムな環境で紡ぐ時間は財産になる、自己投資なんですよね。奥入瀬は、そうしたセミナーツーリズムにも適していると感じていました。
上明戸 「エグゼクティブセミナーをやりたい」「セミナーツーリズムにつなげたい」。これに奥入瀬という場所を選んだのは、何か理由があるのでしょうか?
大谷 青森県からも「奥入瀬で」という話がありましたし、僕はその頃、少し廃れていた奥入瀬の活性化に少し関わっていたので、これはちょうどいい機会だな、と。質のいいハコがあって、自然を生かしたアクティビティもできる奥入瀬は、まさに女性にぴったり。女性のリトリートの場所として最高だろうなと考えました。首都圏から参加者を呼ぶにも、青森空港、三沢空港、八戸駅が利用できて、交通アクセスも良かった。
上明戸 サミットが始まった2012年は、東日本大震災の翌年ということもあって観光客も少なく、奥入瀬、十和田湖あたりはちょっと寂しい感じでした。それゆえ、十和田市出身の小林さんが、「奥入瀬の地でセミナーツーリズムを」と考えたのは、特別な思い入れがあるのではないですか?
小林 もう溢れ出る想いがあります(笑)。奥入瀬の代表的な樹木であるブナ、その森はとてもフェミニンなんですよね。同じ青森県のブナでも、白神山地は木が太くて猛々しい、どちらかと言えば男性的な森だと思うんです。逆に奥入瀬のブナは細いからしなやかで森が明るい。なんかこう「きれいなママさんがいるスナック」という感じでしょうか、入りやすくて気持ちが高揚する。心を元気にしてくれる優しさがあります。当時は観光客数も落ち込んでいる時期だからこそ、奥入瀬の素晴らしさを発信して、ひいてはセミナーツーリズムを根付かせるチャンスだった。遠方から参加された方は「こんなマジカルな場所が、なんであまり知られていないのか」って思ったんじゃないかな。
大谷 奥入瀬は大人向けの場所。それなのに大人向けのアクティビティがなかったから、「大人の目的地にしたい」と思い浮かんだんです。なので、大人のレストランと、イケメンと楽しむカヌーライドで、女性のリピーターを増やそうと。
 奥入瀬のキーワードは「大人」。そこに「大人が学ぶ場所」「リトリートする場所」と設定するのは、ぴったりでしたね。
小林 開発が進み過ぎていなかったことで、自然の姿が守られていたのが逆に良かった。渓流、森、湖の中に溶け込んで、ゆっくり本を読んだり、森林浴、自分を見つめなおす… 奥入瀬は、リトリートに本当にぴったりなんです。
大谷 ブナの力もすごい。
小林 ブナは素晴らしいー。何と言っても見た目が麗しいです!森のサイクルを考えた時、まずコケの絨毯があって、そこに樹木の種が落ちて守られながら育って美しい森になっていくというストーリー。そこには菌類から野鳥、カモシカや熊まで、さまざまな生き物が存在して命の輪が繋がっている。小さなコケだってすごいです、ルーペで見るとガウディの建築ですよ。森は小さな宇宙、本当に飽きないです。で、人間もちょっとお邪魔させてもらってセミナーなどやったりして(笑)。
上明戸 当初の奥入瀬サミットは、女性経営者や管理職、リーダーを対象に、招待制にしていました。奥入瀬の緑の写真を見たら、都会で頑張ってちょっと疲れてしまった女性は、きっと行ってみたいって思ったでしょうね。
小林 金曜の夜、電車のつり革にぶら下がっている時に奥入瀬の写真を見たら、「9月はここに行こう」と思っちゃいます。
大谷 実は初回に参加した経営者と、翌年また奥入瀬で偶然会ったことがあります。個人旅行のリピーターになっていました。
小林 あら、嬉しい! サミットをきっかけに、奥入瀬を好きになってもらって、また、家族や友人たちと一緒にリピートしてもらうというのも狙いでした。
大谷 真樹 氏
1961年八戸市生まれ。学習院大学経済学部卒業。NEC勤務を経て、株式会社インフォプラント(現 株式会社マクロミル)を創業。2001年に起業家のアカデミー賞といわれる『アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー・スタートアップ部門優秀賞』を受賞。2008年に八戸大学客員教授、2010年に八戸大学・八戸短期大学総合研究所所長・教授、2011年に八戸大学学長補佐、2012年から2018年3月まで八戸学院大学学長を務めた。大学では「中小企業・ベンチャー企業論」「イノベーションマネジメント」「新農業ビジネス」等の科目を担当。社会人講座「起業家養成講座」の主任講師も務め、数多くの起業家を輩出している。
小林ベイカー央子 氏
仙台放送(1989年入社)にて報道アナウンサーとして6年間勤務後にロンドン大学キングスカレッジ留学。帰国後はNHK BS1でキャスターとして活動。故郷の十和田市現代美術館開館時(2008年)より特任館長、首都圏での広報活動とともに、十和田へ新幹線通勤し市民イベント等の企画運営を担当。同アドバイザリーボードメンバー就任。
フリーランスプロデューサー、Arts PR、翻訳通訳(日英)の他、心理カウンセラーとしてマインドフルネスを取り入れたコーチングセミナーを企画、BODY MIND SPIRIT 講座を開催し、十和田湖や奥入瀬でのリトリートに取り組む。また、青森県内の美術館鑑賞と街の人とふれあい、豊かな自然を満喫する Art & Nature Tourismを提案している。
上明戸華恵 さん
RAB青森放送(日本テレビ系列)での局アナの経験をいかし、現在フリーランスのアナウンサー。県広報番組「活彩あおもり」など番組のリポーター、番組・PV・CMのナレーション、式典・お祭り・イベントの司会など、硬軟多様な現場での経験が豊富で守備範囲がひろいMC。調理師・アクティブ野菜ソムリエの側面も。青森県農政審議会委員。
第1回の「奥入瀬サミット2012」から司会を務める。

心つながる
「夜の分科会」
上明戸 そのような癒やしの面も持っていながら、いざ参加してみると、さまざまなネットワークが築ける奥入瀬サミットは、本当に充実していたと思います。
 今年で10回目。これまでの中で、思い出深い出来事や、印象に残った方について教えてください。
小林 大谷さんはやっぱり、女子マラソン選手だった谷川真理さんと走ったことではないですか?だって大ファンでしょ?
大谷 僕の憧れの人だった谷川さんとは、今も交流が続いています。3回くらい一緒に奥入瀬を走ることができて、本当にうれしかったですね。
 出来事として強烈だったのは、交流会2次会の「大谷部屋」(別名・夜の分科会)。みんな酔ってどんどんパワーアップしていって、すごい世界でした。女性同士がはっちゃけて、さまざまな本音を話せる場って、多分あまりないですよね。経営者同士で、普段社員とは話すことができないテーマや悩みが、この夜の分科会で盛り上がっていましたね。いい場所が作れたなと。僕の人生最大でモテた瞬間です(笑)。
上明戸 大谷部屋に集まっていたのに、時間が経つと大谷さんが外れて、女性同士で盛り上がっている感じでしたね。
大谷 僕はひたすら酒の栓を抜いて、女性の皆さんの飲み物を作っているだけでした。
上明戸 参加者の方々がサミットの会場に集まってきたばかりの時間は、まだ緊張感が漂っていましたよね。どこかよそよそしさがあったんですけど、1泊した後の翌朝は、皆さんの顔が生き生きしていましたし、帰る時になると、すごく和気藹々としていましたね。
小林 「顔」といえば、お風呂効果というのがあります。皆さんで一緒にお風呂に入ると、昼とは違う顔が見られるわけですよ(笑)。素のままの自分を見せ合って、意気投合したり新しい発見があったりして絆ができていくんですね。信頼関係の種が生まれるのかな。サミットの期間中に「ねえ、何か一緒にプロジェクトを立てましょうか」ということもありましたよ。
大谷 化粧がないから「Who are you?」ってなる?(笑)それはやはり滞在型のメリットですよね。
上明戸 「交流しましょう、名刺交換しましょう」だけでは、心まで繋がらないかもしれません。でも、寝食を共にしたり、夜の分科会でお酒の力を借りて本音を話したりすることで、親しい関係になり、お互いに共感を持てるようになりますよね。
 サミットで出会った女性同士でのビジネスの展開は、これまでにあったのでしょうか?
大谷 協働でやったのは分からないけど、独立起業した人は多数いますね。
小林 協働プロジェクトもありましたよ。例えば、自撮り棒を駆使して(笑)サミットの一部始終を発信してくださっていた、元日立ソリューションズの小嶋美代子さん。小嶋さんに声をかけてもらって、彼女と一緒に私も大手企業の研修を実施しました。小嶋さんはマグネットのような方で、他にもサミットで知り合った方々をつないで、講演やセミナー、カジュアルな集いの機会なども設けてくださいました。
 それに、保坂梨恵さん! 長く勤務した大手の会社を辞めて起業。その団体の代表に加え、今や食肉加工会社の社長と二足のわらじで青森の魅力を発信しながら活躍されています。奥入瀬サミット事務局も買って出て積極的に活動されました。勉強家でパワフル、まさにサミットの申し子と言えると思います。
大谷 サミットは、化学反応のように、あちこちにいい刺激を与えたと思います。上司と部下の関係でもないし、同期でもない「ナナメの関係」は、利害関係がないから、本音が話せるし、本音を聞ける。そのナナメの関係性は、さまざまな化学反応を起こしますよね。
小林 ナナメ、大好き。人生は型通りにではないのですよね。私生活を含めさまざまな変化を迎えた時に、自分と全く違う生き方をしてきた女性たちはお姉さんのような、カウンセラーのような存在になるのだと思います。いわゆるネガティブなこと(正確にはネガティブと思われること)もすでに通り抜けている方々からすれば「そんなの大丈夫よ」と明るい叱咤激励が飛んでくる。その生の声が聞けるメリットは大きいです。奥入瀬サミットはそんな場所。だから「9月は奥入瀬に帰りたいな」という言葉を何度も聞いたことがあってすごく嬉しかったです。
上明戸 これまでの参加者の声を紹介しますね。
 参加の目的は「自分自身の向上」が多いです。そして参加してみての感想は「半信半疑の参加だったけど大満足」「リピート決定」「夢への可能性が広がった」「自分自身を見直すきっかけになった」とか。「私は一人ではなかった」「帰りの電車で泣いた」という方もいましたね。
小林 とどのつまり、心が動かないとダメなんです。知識や人脈ももちろん大切ですが、「また、あの包まれる場所に帰りたい」と、心が動くというのが全てだと思います。
奥入瀬渓流ホテルのラウンジの巨大暖炉「森の神話」の前で(奥入瀬サミット2012)

人間としての強さや
魅力があるゲストを
上明戸 回を重ねるごとに、奥入瀬サミットへの注目度や参加者からの期待は高まっていったと思います。お二人はどのあたりから、どのように手応えを感じていましたか?
大谷 最初は手応えがなくて、本当に苦労しました。参加者数も伸びなかったし、スポンサーも付かず、予算は青森県におんぶにだっこ。とても苦しかったです。
 でも、県がこの事業を止めずに続けてくれました。その後、地元の太子食品工業株式会社さんがスポンサーに付いたり、対馬ルリ子さん(現・奥入瀬サミットの会会長)がスポンサーを引っ張ってきたりして、光が見えた気がします。
小林 最初の3年はトライアルアンドエラーの繰り返しで、闇の中にいた感じでした。「なんだか面白そう」という空気が醸成されるまで時間をかけて止めずに続けたことで、4年目以降は景色が変わりました。脚本家の中園ミホさんや女優の夏木マリさんがゲストで来てくださったりして、華やかさも加わりました。
上明戸 ゲストを選ぶ際に考慮したことはありますか?
小林 生き方がブレていないことかな。人間としての魅力や強さがある、あと、やはり真の優しさがある方でないと… 奥入瀬は優しい場所ですから。「奥入瀬に似合う、奥入瀬っぽい」がキーワードでしたね。加えて、もうジェンダーという概念にこだわらなくても良い時代・・・。以前の事務局では、台湾のデジタル担当政務委員大臣オードリー・タン氏を呼びたいよね、なんて話したんですよ。
上明戸 対馬会長や小嶋さんのように、初めは講師や参加者だった方が、プレゼンテーションする側になったことも、面白い変化だったのではないでしょうか。
大谷 理想的な変化だったと思います。そして自治体が始めた事業が、変化をしながら最終的に民間に移行できたという成功例は、あまりないでしょうね。
小林 物事が動くのには時間がかかります。たとえエラー気味でも止めないということが大切なんじゃないかしら。止めなければ失敗に終わることはないですから。あと、私はダンスや津軽三味線など、楽しい場面で地元の方が活躍できるステージを作りたいと思っていました。
上明戸 小林さんはそういうことを積極的に進めていましたね。
小林 外からの刺激を受け止めるだけではなく、地元側からも登壇者を選んだり、祭り、芸術の分野で青森らしさをガツンと発信し、サミットの参加者とつなげてファンになってもらいたいと考えていました。十和田市現代美術館も見学していただけて嬉しかったです。
上明戸 奥入瀬サミットは今、経営者や管理職だけではなく、次世代リーダーも対象にして、参加者をオープンに募っていますよね。
小林 対馬さんが会長になってから、「いいものはみんなで広く共有しよう」という方向転換をしました。参加対象を経営者に絞らず、どなたでも参加しやすいシステムにしたのはとても良かったと思います。
大谷 1回目は東日本大震災の後、価値観そのものが変わっている最中でした。参加者からは「リセットされました」「もっと大切なものに気付きました」という感想が多く、経済的なメリットを享受するというよりは、本来の人間らしさを取り戻したり、森の豊かさってなんだろうという問いに気付くきっかけになったようです。
 価値観が変わっている中で、東京至上主義から脱却したいニーズを逆に発掘できたと思う。経済セミナーは自社や自己の経済的利益のために知識や人脈を得ようとすることが多いけど、そうじゃない効果を奥入瀬サミットはもたらしたと思う。
 さらに、価値観は変わっていき、奥入瀬サミットの軸は「ヘルス&ビューティー」に移っていきました。コロナ禍によって、今後さらに変わるかもしれないですね。
小林 奥入瀬サミットの参加者には「自分のコミュニティは自分で作る」という人が多いと感じます。それに刺激されて「私も挑戦してみよう」と動いた人が多かったのではないかしら。「自分軸で生きる」というスタイル、多くの人にとって励ましになったと思います。
 あと、私がとても共感したのが「ひとりじめをしない」ということ。先述の小嶋美代子さんがよく仰っていらっしゃるのですが、ひとりじめをしないことが結局は幸せに繋がるんですね。「一緒に喜ぶ人がいる」「自分じゃない人のために動く」「分ける」「広げる」、英語で「シスターフッド」と言いますが、女性同士で助け合い、豊かさや知識を分け合い、励ましも分け合う。「大丈夫だよ。みんなで頑張ろう」という絆がサミットを通してできていたらとても嬉しいですね。シスターだけじゃなくて、ジェンダーも年齢も国境も超えたヒューマンフッドのほうが合っているかな。
大谷 この10年で、あっという間に「女性を対象」というのが古くさくなっていると思うんです。
小林 私、対馬会長にそのことを話したことがあります。そしたら「小林さん、日本はまだまだそこからコツコツと続けなきゃだめなの」と言われました。御意。情報がすぐ手に入る時代とはいえ、まだ地方と首都圏でも意識のギャップはあると思います。
大谷 男性を排除するのではなく、女性が開放される場であってほしいですね。「どうぞ、奥入瀬で自分を見つけてください」というような。
十和田市現代美術館のアート広場で参加者の皆さんと(奥入瀬サミット2015)

気持ちがほぐれる
余白の時間と場所
上明戸 女性の活躍推進に向けて、奥入瀬サミットは先駆的な役割を果たしたと思います。「サミットイズム」ってあると思いますか。
小林 んー、最初は、女性が男性に負けじと引っ張ってきたと思うのですが、ビシッと頑張ってきた女性が奥入瀬の地に来ると本当に大切なものは何だろうと歩を止める。ほぐれちゃうんですね~、だって奥入瀬は優しいんだもん。イズムはそこかしら。
大谷 自分についてよく考える、余白の時間と場所を与えたんじゃないかな。忙しい人は余白の時間、地元の人には知らなかった世界を見せることができました。もしサミットがなかったら、青森県の女性に、あのような機会はなかったと思います。
小林 リトリート=間ですよね。「違う世界があること」や「こうやってもいいんだ」という気付きを与える役割があったと思います。
上明戸 2018年のサミットで、高校生や大学生を仲間に入れたことも、大きな変化の一つですよね。
小林 そうそう。すごく頼もしかったです。男子も入っていましたね。年代の違う私たちに囲まれて大丈夫かしらとも思ったけど、意外と楽しそうでした(笑)。
上明戸 若い彼ら、彼女らが女性リーダーたちの苦悩を聞いたことで、「大人もこんなに悩んでいるんだ」「自分が社会に出たら変えてみよう」などと思ったかもしれませんよね。
小林 案外「こうすればすぐ解決するんじゃないの?」という答えが、もう彼らの発想の中にあったりして。
上明戸 対馬会長が運営側に入ったことで、「ヘルス&ビューティー」に力を入れ始めましたね。女性の活躍のためには、女性の健康を守ることが必要。そして男性にも女性の体のことを理解してほしいということで、男性の参加も促しました。反応した企業もありましたね。
小林 女性の心身が健全であることが経営に影響することを理解されている企業は格段に増えていると思います。あ、これも女性という括りでなく全ての人に通じることですけれど。

豊かで価値がある
自分と対話する時間
上明戸 それでは、今後の奥入瀬サミットに期待することを伺います。10周年を迎えたサミットですが、今後こうあってほしい、逆にここは変わらないでほしいことはありますか?
大谷 テーマや開催場所が変わっていくことは仕方がないと思います。それでも、原点である奥入瀬の森、蔦の沼を歩いて、自分について考えるアクティビティは残してほしいですね。それこそ、余白の時間。森の良さ、渓流の良さが奥入瀬サミットの原点。時代時代でテーマやアクティビティはどんどん変わっていくべきだと思うけど、「森に戻る」という奥入瀬サミットの原点はつないでいって欲しい。そうやって自分と対話する時間が、一番豊かで価値がある。多少二日酔いで歩くことになっても、奥入瀬の森や奥入瀬渓流に行ってほしいです。このコロナ禍が終わったら、ぜひ、自分の足で歩いて欲しい。
上明戸 同じお話を聞くにしても、その環境によって、違いはありますよね。
小林 五感、におい、風がさぁっと肌をなでる感じ、光もそうですし。朝に奥入瀬渓流を歩くのと夕方に歩くのと全然違います。そこで、自然の美しさ、大切さ、命のことも考えますし、環境問題のことも気付かされます。この恵みに満ちた土地でサミットを開催できるのはとても良いと思います。軽井沢に負けていないです!
 今、時代がものすごく速く変化していますよね。それに驚かない心の強さ、どっしり感と、時代にうまく乗っていく軽やかさ、波乗り感、その両方を持ちたいと私自身思っています。奥入瀬サミットは、そのようなことを体現している方たちが、多くの人に勇気を与える場所と時間であることを期待しています。
上明戸 はじめは青森県の主催で始まった奥入瀬サミットですけど、今年から、奥入瀬サミットに参加した人たちで設立された「奥入瀬サミットの会」が引き継いで開催しています。民間主導になった奥入瀬サミットへの期待感もありますね。
大谷 僕らもスタートの頃から、持続可能なイベントにすることを意識していました。そのためには、いずれは完全に民間が自立運営することが必要です。
小林 最初の頃に描いたロードマップのとおり歩んでいると思います。民間になったほうがフットワークもいいと思いますし、できることも大きく広がっていく。参加していた人が今度は主催者側になる、最高のパターンですね。
上明戸 では、これから奥入瀬サミットに参加する皆さんへメッセージをお願いします。
大谷 定期的に奥入瀬サミットに帰ってきて欲しいです。さらに、オンラインで同窓会ができるとおもしろいね。オンラインで会ったからこそ、ますますリアルでも会いたくなる。どんどん、オンラインでも集まって欲しいね。いまの時代だからできる楽しい企画をやって欲しい。
小林 東京や青森で、サミットの参加者が自主的に集まって同窓会をしたことがありますし、九州での勉強会もありましたね、大谷さんがゲストで呼ばれて。これまでの10年の絆は宝ですね。
大谷 家飲みオンライン同窓会をやって欲しいね。お酒は、青森の地酒限定で、つまみは塩辛で。
上明戸 家飲みオンライン同窓会で、この10年間、サミットに参加してくれた方とお会いしたいですね。
 さて、9月25日に10回目の奥入瀬サミットが開催されますが、期待感はいかがでしょうか。
小林 対馬会長を筆頭に奥入瀬サミットの会の皆さんが熱意をもって取り組んでいらっしゃいますし、安定感があるので、とてもいい時間になると思います。
大谷 僕は最近、なかなか参加できてなくて申し訳ないです。でもちゃんと応援してますよ。
上明戸 10年の時を経て、形式やテーマが変化していますが、皆さんが思っていることは同じだと思います。これからも奥入瀬サミットを縁に、たくさんの人が出会っていけることを願っています。お二人には奥入瀬サミットを応援していただき、見守っていただければと思います。
 本日はありがとうございました。
※この対談は、八戸都市圏交流プラザ「8base」(東京・日比谷 OKUROJI 内)の協力のもと行われました。